2004年秋 I から「結婚することになったさ」と電話がありました。 突然のことだったし、もう〜自分のことのように嬉しくてしばらくの間浮かれてしまいました。 私がブーケを作るんだ!と真っ先に思いました。勝手に鼻息を荒くして、 自分が作るものだと思い込む始末。 でも心配なことが。I は造花が嫌じゃないだろうか・・・? 結婚式のブーケ=生花ありきの話じゃないですか。 生花ブーケを業者に依頼するのが普通の流れだと思うんですね。 何かのきっかけがない限りは、さぁ結婚式だ 造花ブーケ持とう、とは考えないものです。 前撮りがあるから複数のブーケを用意しなくちゃならないとか、 ずっととっておけたらいいのに、とか そんな発想から造花やプリザーブドフラワーを 選択肢に入れていくことが多いと思うのです。 そんな心配をしながらも I にブーケをプレゼントさせてと申し出ました。 するとふたつ返事で「お願いするよ」と。 これといった比較検討もせず、私が親友で造花の仕事をしているっていうことだけで 一任してくれた I に、まずは感謝しました。 I に、新郎に、参列するゲストの全てに喜んでもらえる作品にするぞ!! 私には沢山のお客様から喜びと幸せを分けていただいた感動と経験、そして実績がある。 いいものを生み出す自信は満々。 その後 I が出張で東京に来ることになりました。 仕事の合間をぬって打ち合わせをしました。花の好み、ドレスの構想、披露宴の演出、 会場の雰囲気、大きさ・・・色んなパーツを拾って大まかな雰囲気を話し合いました。 メインはバラで決定。よくある形ではなく、アームブーケやクレッセントなど インパクトと個性があるもの・・・ まだドレスが決まっていないし、ブーケなんて初めてのことだからまだまだ考えがまとまらない I。 一方私は・・・ まいった。困った。やりたいことがいっぱいありすぎる! 10年以上の付き合いなので、 I に似合うものはよくわかっているつもりです。 それがゆえアイディアがあふれて止まりません。 自分の友人だから良く見えてしまうという部分もあるかもしれませんが、 I は珍しくどんな花でも似合いそうなんです。 「可愛い」も「大人っぽい」も「スタイリッシュ」も変幻自在なのです。 面立ちが大人っぽいので真紅やパープルといったアダルト路線に いっても良いのですが、淡い色やクラシカルカラーでもキマりそう。 とにかく式はまだ1年も先。 ゆっくりと煮詰めていくことにしました。 私は毎日構想を膨らませてはうきうきルンルン。 もう少しで札幌に帰省もします。そうしたら、同じく高校時代からつるんでいる もう一人の親友Yと I で会おう!3人で I の式についてワイワイ話そう。 Yは既婚で挙式披露宴もやったから、 I に似合うお花の相談をしよう。 しかし帰省が近づいてきたある日、信じられないニュースが舞い込んできました。 I から電話があり、Yは病気なのだと聞かされました。 よく聞く病気。でも完治が十分可能な病気。 絶対治る。だってYだし。頑丈なYのことだし。それに I の結婚式だってある。 ・・・Yの結婚式は私が札幌を飛び出して音信不通にしちゃって出られなかった。 私の結婚は記念写真だけで、式を挙げなかった。やっと3人組のうちの1人を 祝ってあげられるんだから。Yはそれまでに治ってるはずなんだ。 Yとなかなか連絡がとれず、しばらくはIと心配する日々が続いたのでした。 2005年初夏 衣装がほぼ決定しました。 挙式:白無垢(身内だけで神前式。ここでは私は関与しません。披露宴の時に参加します)。 披露宴入場時:色内掛け→お色直しその1:白ドレス→お色直しその2:色ドレス という流れになりました。人とは違う変わった雰囲気で花を持ちたいという I の希望があったので、色内掛けにも何かしらのお花を製作することに大筋決定しました。 色ドレスは色が命。それは写真を拝見してから詰めることにして、白ドレス用のお花を 考えました。チャペルで挙式なら白ブーケにしなくてはならないというルールがありますが、 披露宴での白ドレスですから色や形は自由です。白ドレスに自由な花あしらいというものを、 一度やってみたかったのです。 テーマカラーはピンク系。バラもいいけれどユリやカラーも欲しいという希望。 ならばアームブーケがいいということだし、カラーはアームブーケにもってこいの花。 サブと色調整にはバラを取り入れることにしました。 ブーケ以外のアクセサリー類はよく分からないということなのでお任せしてくれました。 あ〜楽しくて仕方がない! 詳しくはドレスが最終決定になり、拝見してから詰めていくことになりました。 5月末。ずっと連絡を待っていたYから、手紙が届きました。 高校の時と変わらない懐かしいYのくせ字。ポジティブな話と愚痴が入り混じる中、 聞いたことのない治療の名前が書き連ねてありました。 本当にYは病気なんだということを思い知らされました。 急がなければならないのかもしれない。 やっとYのいる病院がわかったので、急いで飛行機を予約しました。 6月初旬 以前から中旬に帰省する予定がありましたが、それを待たずに急遽札幌へとびました。 何かお見舞いを持参したいと思い、淡いピンクの小さなアレンジメントをアートフラワーで 作りました。 もらった手紙に「ずっとベッドの中だから、今年は札幌の桜が見れなかったよ」と あったので、桜の形に似ている一重咲きのミニバラをあしらいました。 Iにも色違いの花材で、同じデザインで作りました。近く花嫁になる I にはウェディングフラワーの 代名詞、ブルースターをあしらいました。 お見舞い当日、 I と一緒に生花店へ行きアレンジメントを注文しました。 ガーベラをビタミンカラーでまとめてもらいました。情けないかな、花以外にYの好きなものや 喜ぶものが何ひとつ浮かばなかったのです。10年もの付き合いですから、Yのことをいっぱい わかってあげられていたはずなのに・・・。 病院へ行き、Yと1年ぶりの再会。病をかかえているとは思えないぐらい、あいかわらず きれいなY。Yが「 I の結婚式、いきたかったなあ。」と言うので思わず私は 「行きたかったな、なんて過去形じゃなくて行くの!ちゃんと来るんだよ。3人でお祝いするの。」 と言ってしまいました。Yが涙を流しました。泣くのを初めて見ました。 私も I もやっと会えた喜びと悲しみで涙が滲みました。 お見舞いの生花はすぐにさげてしまうそうです。維持に手間がかかる等何らかの事情で、 病室に花を置かない方針なのだそうです。なんだか残念。 造花のアレンジメントは喜んでくれました。 I とお揃いの花。 3人はずっと一緒だよ・・・ ほんとは言いたいのに、恥ずかしくて口にできない気持ち、 Yに伝えられただろうか・・・。 生花アレンジメントはすぐにさげられちゃうけど、造花は枯れないからずっとYのそばにいられるね。 調子が悪そうだったので10分程度で帰ることにしました。 握手をして別れました。熱があるのか、すごくあたたかい手でした。 その後 I の衣装合わせに同行することになっていました。 3人一緒に行けたら良かったのに。でも必ずYに I のきれいな花嫁姿を見せてあげなくちゃ! 気持ちを入れ替えてTUTUへ向かいました。 一体何百着あるの!?と言う程沢山のドレス!女性ならば誰もがわくわくするような光景。 この中からお気に入りの一着を選べとなると、ものすごく悩みそう。 そんな中から色内掛け、白ドレス、色ドレスを選び抜いたIを尊敬してみたりして。 Iが白ドレスを着てお披露目。照れくさそうに笑う I に「すごーい!きれい!!」と思わず声を あげました。それはオフホワイトのマーメイドライン。 I:「Aラインのと迷ってるんだけどね。これどう思う?」 私:「色ドレスがプリンセスラインなら、絶対マーメイドラインの方ががらりと 雰囲気変わっていいって!かっこいいよ。よく似合ってるよ。」 お色直しは花嫁の色んな魅力をお披露目する意味があると思います。 ですから似たような雰囲気にするよりは、マーメイド→プリンセスという流れは私の中では最高です。 試着に同行した上でお花を手掛けられるなんて貴重な体験は滅多にできません。 ここぞとばかりにデジカメのシャッターを押しまくりました。 正面、全身、バストアップ、サイド、バック、生地の色・質感のアップに胸元のカットワーク・・・。 何度もアングルを変えて花嫁の周りをうろちょろする私は、店内でちょっと浮いて いたかもしれません。
華やかにすればいいことさ。全部の要素が全力投球だと野暮ったくなるよ。 足し算と引き算をうまくすればコーディネートがうまくいくはずだよ。」 I :「そっかあ。ドレスに花がつくのが最終形だもんね。雰囲気は花で調節できるんだしね。」 私:「その辺の計算は私に任せなさい!すんごいの作ったげるからさ。」 かくして白、色ドレスは決定。最後は色内掛け。
【入場:色内掛け】 ○和装用のボールブーケ 派手な色内掛けにわざとすっかり馴染んでしまうような色合いにする。 手からさりげなく巾着袋をぶらさげるような、アクセサリーのような存在感にして、派手でも 地味でもない雰囲気にする。 ○ヘッドパーツ 和髪にするのと、ボールブーケを誇張し過ぎないためにもヘッドパーツはなし。 【お色直しその1:オフホワイトのマーメイドライン】 ○ブーケ シンプルなドレスだから花でいかようにも雰囲気作りができそう! 形はカラー、ユリを主体としたアームブーケ。サブにバラ、カスミ草。ふわふわしたものが 好みとのことで、羽毛も取り入れる。色と個性を全面に打ち出す。 「大人の女性」「甘さ」「スタイリッシュ」路線。 テーマカラーは暖色系。鮮やかなピンクとくすんだピンクを織り合わせて、ボルドーで締め、 浮かないようにドレスの繋ぎ色も少々。 ○バックコサージュ ブーケと同系色を基本に、コサージュとして今までみたことないような個性的な形にまとめる。 マーメイドの美しいシルエットの邪魔をしない程度の適度なボリューム感にする。 ○ミニコサージュ ドレスには短めのトレーンがあるので、まんべんなくゲストの視線が注がれるように ミニバラを少量、縦ラインを描くようにあしらう。 ○チョーカー・リストレット ブーケはボリュームいっぱいにしたいので、花1輪とサブ花材程度で控えめに。 特にリストレットに関しては、アームブーケを持った場合は手元が露出するため 野暮ったくならないように注意する。 ○ヘッドパーツ ブーケとお揃いの花材で多めに作る。 後々ヘアメイクさんと相談をしてその中から選んでもらうようにする。 【お色直しその2:プリンセスラインの色ドレス】 ○ブーケ 一番悩んだ! 水色でもエメラルドグリーンでもない絶妙なきれい色を最大限活かしたい。 ドレスの色から離れすぎるときれいな色より目立ってしまう。色を活かすには淡い色みの 花を集めて、濃すぎない挿し色を加えるのがベスト。白ドレスで色遊びをした分、可愛く さわやかに。形はクレッセントブーケ。バラをメインにきれいな月型を描く。 グリーンがかったバラを主体にしてオフホワイトのバラ、水色のデルフィニューム、 ラクスパー、ブルースター、そして斑入りアイビーでグラデーションを作る。 カナリアイエローの小さなバラを少量挿す。小花で華やぎと軽さを出してアイビーでやんわり トリミングすれば、ドレスもブーケも活きてくるはず。 ○バックコサージュ ウエストの幅にきちっとおさまる程度の大きさで花をラウンド型にする。 アイビーをふわっとあしらって、クレッセントブーケとリンクさせるようにする。 ○リストレット ボリュームたっぷりのブーケを持つ場合、リストレットのボリュームを抑えるのがセオリー。 けれども大きめのリストレットをしても、手元はブーケにすっかり隠れてしまう。 ブーケを持たないシーンがサマになるよう、思い切って存在感のあるサイズに。 ちょっとうるさいかな?と本人が思うようであれば使わなければいいことだし! ○チョーカー ジュエリーをつけるかもしれないので、不要になる可能性があるけど用意する。 クレッセントブーケはかなりボリュームたっぷりなので、けんかをしないように ブルースターとデルフィニュームを並べた程度のさりげないものに。 ○ヘッドパーツ ティアラをつけるかもしれないので、これも不要になる可能性あり。 やはりブーケのボリューム感を考慮して、量感のあるバラはちょっとにする。 軽くまとまるブルースター、デルフィニューム等の小花はたっぷり用意する。 ブートニアは次の帰省で新郎と初対面する予定なので、会ってからイメージを 膨らませることに決めました。 東京に戻り、花材の在庫をチェック。ルンルン気分であれもこれもとやっているうちに あっと言う間に一週間がたち、もともと予定していた帰省の日。再び札幌へ。 今回は I と、旦那様となるKさんにも会う予定です。それが初顔合わせです。 花をお任せいただいていることもあり、ちょっと緊張。 Yのお見舞いに行きました。 その時のことを今こうして思い出しても涙が出そうです。 何にもしてあげられない自分に腹が立ちました。 夜、I とKさんとで宴会をしました。 話に聞いていた通りの旦那様。I をおヨメにするぐらいなんだから、楽しくない人の わけがありません。お酒に強く、同じペースで私もぐいぐい飲んでしまい何を話したか あまり覚えていません。覚えているのはへべれけになりながらもブーケの打ち合わせを したことです。二人の結婚披露宴ですから、新郎の希望や意見を聞きたかったのです。 ブートニアも作らなくてはならないので、Kさんの身長から始まり、好きな色は? I に似合うと思う色は?I をどんな花嫁さんに見せたいか?当日はどんな雰囲気の披露宴を 望んでいるか?等々質問をしてメモ帳に書き留めていきました。 そんな私を見て、一言「プロですね〜」。 I と同じことを言ってる〜!と、ふと I に目をやると・・・寝てます。 楽しい時間はあっと言う間に過ぎお開きに。 必ずや I を最高の花嫁に仕立てますと約束して解散しました。 お問い合わせは【こちら】 |